住宅のインスペクションまとめ【2019年最新版】~いま知っておきたいインスペクションの予備知識

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住宅のインスペクションまとめ【2019年最新版】~いま知っておきたいインスペクションの予備知識

2019/01/29 blog 記事の目次

昨年2018年4月1日から施行された宅地建物取引業法(以下「改正宅地建物取引業法」と称します)では、既存住宅(中古住宅)の取引時に「住宅のインスペクション」を認知・普及させることを目的とする内容が含まれていました。

果たして、以前より一般の方にも「住宅のインスペクション」が知られるようになったでのしょうか。あるいは「住宅のインスペクション」が実施されるようになったのでしょうか。

「住宅のインスペクション」は、宅地建物取引業者や建築士さんでさえ、まだよくわからないという声もあります。

なおさら一般の方では「住宅のインスペクション」という言葉は聞いたことがあるけど、よくわからないというのが大勢でしょう。

宅地建物取引業法の改正から約1年たった2019年現在、実際の既存住宅(中古住宅)の取引の現場では、インスペクションの認知や普及がまだあまり進んでいないというのが現実のようです。原因はいくつか考えられます。

下記の2つなどが考えられます。

  • (1)改正宅地建物取引業法上のスキームの問題。
  • (2)改正宅地建物取引業法上の「既存住宅状況調査」の説明の問題。

(1)については、改正宅地建物取引業法のスキームでは、特にインスペクションについて予備知識のない買主が「住宅のインスペクション」をはじめて知り、理解し、実施することが、現実的には難しいこと。

(2)については、中古住宅購入時のインスペクションがまだあたりまえではない日本の住宅市場で、そもそもインスペクションが何かわからない段階にもかかわらず、「既存住宅状況調査」という名称が、あまり配慮なく「インスペクション」や「建物状況調査」という呼称に置き換えられて解説や説明がなされたり、使用されたりしていること。

そこで今回は、これらの説明も含め、2019年現在の「住宅のインスペクション」について、あらためて知っておきたい項目をまとめてみました。

ひとこと

「インスペクション」という言葉は、何も住宅に限りません。

インスペクションとは、第三者のインスペクター(該当する領域の専門家)が、商品やサービスについて品質評価し、不具合や問題点が無いか検証する作業を意味します。

例えばIT業界なら、下記のように説明されています。

インスペクション(いんすぺくしょん) - ITmedia エンタープライズ

インスペクション(既存住宅状況調査)の普及促進

現在の日本の住宅市場では、既存住宅(中古住宅)の市場を活性化させることが、国や自治体の喫緊の課題です。

理由は、今後の急速な人口減少にともなう住宅市場の縮小に対応するためです。

さらに、いまの住宅市場をとくに対策せず成行まかせにしてしまうと、急激に空き家が増加し、当該エリアに外部不経済をもたらしてしまうからです。

一方、需要サイドの購入者が既存住宅(中古住宅)を購入する際の一番のネックは、中古住宅の建物の質に関する不安です。

その不安を解消する一つの手段が、購入前に建物の検査(インスペクション)をすることです。

この建物の検査(インスペクション)を推進させるための具体的な政策の一つが、2017年2月に用意された資格者である「既存住宅状況調査技術者」が実施する「既存住宅状況調査」です。

「既存住宅状況調査技術者」は、建築士であることが条件の資格で、「既存住宅状況調査」だけでなく、以前からある「既存住宅売買瑕疵保険」加入時の現況検査の実施者にも指定されています。

簡単にいうと、中古住宅の取引を活性化させるために「既存住宅状況調査」や「既存住宅売買瑕疵保険」を早急に認知・普及させたい意向が国にあります。

ひいては、2012年3月に打ち出した「中古住宅・リフォームトータルプラン」や2016年3月の『住生活基本計画(計画期間:平成28年度~37年度)』で掲げられた、「中古住宅流通・リフォーム市場を20兆円規模にまで倍増させる」という目標の実現を目指しているのでしょう。

住宅のイメージ

改正宅地建物取引業法におけるインスペクション義務化

2018年4月1日から施行された改正宅地建物取引業法【※1】で「インスペクションの義務化」とか「インスペクションの告知が義務化」されたとよく言われていますが、これはかなりアバウトな表現です。

第一に、ここでのインスペクションは「既存住宅状況調査」のことです。改正宅地建物取引業法上のスキームではこの「既存住宅状況調査」を「建物状況調査」と呼びます。

第二に、「インスペクションの義務化」という表現では、何が義務化されたのかが曖昧です。

おおまかな義務化の内容は、下記の3つです。

[1] 媒介契約【※2】締結の際
不動産業者(宅建業者)が売主・買主にたいして、「建物状況調査(既存住宅状況調査)」をしてくれる業者を紹介できるかできないかを説明し、売主・買主の意向に応じてあっせんすること。
[2] 重要事項説明【※3】の際
不動産業者(宅建業者)が買主にたいして、「建物状況調査(既存住宅状況調査)」が実施されているかどうか、されていればその結果を説明をすること。
[3] 売買契約締結の際
「建物状況調査(既存住宅状況調査)」が実施されている場合、「建物状況調査(既存住宅状況調査)」の結果を売主と買主が相互に確認し、その内容を不動産業者(宅建業者)が売主・買主に書面で交付すること。

つまり、義務化の内容は、中古住宅(既存住宅)の取引時に、不動産業者(宅建業者)が売主や買主に対し『「建物状況調査」をしてくれる業者をあっせんできるかどうか、「建物状況調査」を実施した場合はその結果の報告などを説明すること』です。

中古住宅の取引時に「建物状況調査」を実施することが義務化されたわけではありません。

 
ひとこと

義務化によって、本来は、建物状況調査(既存住宅状況調査)を知らない買主も、建物状況調査(既存住宅状況調査)を知り、希望があれば建物状況調査(既存住宅状況調査)を実施する機会を与えることを期待しているスキームなのですが、実際の売買の流れの中では、建物状況調査(既存住宅状況調査)を知ったり実施したりする機会が与えられない可能性があります。

理由の一つは、実務上、「【2】重要事項説明」は「【3】売買契約締結」の直前に説明されるからです。

買主が、契約日に先立ち、仲介業者などに『「重要事項説明書」や「売買契約書」を事前に見せてください。』と申し出ておかない限り、ほとんどは、契約日当日の契約書に捺印する直前に、買主は重要事項説明の説明を仲介業者からさらっと受けることになります。

もう一つの理由は、実務上、買主側の「【1】媒介契約締結」は、「【2】重要事項説明」や「【3】売買契約締結」と同時に行われることがほとんどだからです。

仮に、買主が、希望する物件を探してほしいと仲介業者に依頼し物件を探す場合でも、専任で仲介業務を受けることはあまりないので、事前に、買主と仲介業者が媒介契約を結ぶことはほとんどありません。

結局、「【1】媒介契約締結」も「【2】重要事項説明」も、「【3】売買契約締結」と同時に行われるので、「【1】媒介契約締結」や「【2】重要事項説明」のタイミングではじめて「建物状況調査」のことを聞き理解しても、その時点から契約などのスケジュールを変更して「建物状況調査」を実施するのは、現実的に難しいことが予想されます。

その時点では、ほとんどの場合、契約のほかに融資や登記などのスケジュールも既に決まってしまっているからです。

このように、義務化の期待する不動産売買契約の取引フローと、実務上の不動産売買契約の取引フローが実際は異なるので、改正宅地建物取引業法における「建物状況調査」のスキームでは、買主側の意向によって「建物状況調査」をするのは、現実的には難しいのではと思われます。

住宅のイメージ

改正宅地建物取引業法における「建物状況調査(既存住宅状況調査)」のおもなポイント

改正宅地建物取引業法における「建物状況調査(既存住宅状況調査)」のおもなポイントをまとめてみると下記のようになります。

2018年4月の宅地建物取引業法の改正による「建物状況調査(既存住宅状況調査)」の主なポイント
  • 既存住宅(中古住宅)が対象で新築住宅は対象外
  • 売主は、媒介契約時に「建物状況調査」を知る機会はある
  • 買主は、購入是非などの判断情報として「建物状況調査」を実施するのは現実的には難しい
  • 構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分のみの調査
  • 傾斜やひび割れ、雨漏り痕などの顕在化している劣化状況を目視で調査
  • 屋根裏や床下の調査は、点検口などから目視するのみ
  • 点検口が無いなどで調査できない場合は「調査できなかった」という報告でOK
  • 瑕疵の有無の判定ではく、瑕疵がないことを保証するわけではない
  • あくまでも顕在化した劣化状況の報告のみで対策の言及はない

このように、改正宅地建物取引業法のスキームにおける「既存住宅状況調査」は、買主より、売主・業者サイド主導で実施するような制度設計になっているように見受けられます。

それが原因なのか、2018年4月から約1年たった今、改正宅地建物取引業法のインスペクションはあまり普及していないという趣旨のニュースなどが見られますが、正確に表現すると、『「建物状況調査(既存住宅状況調査)」はあまり普及していない』となるでしょう。

改正宅地建物取引業法のスキームにおける建物状況調査は、仲介業者が積極的に調査を促進するインセンティブがないこともその要因の一つかもしれません。

建物状況調査を実施するということになると、仲介業者の業務上、契約スケジュールの日数が増えたり、仕事量が増えたりしてしまうので、調査関連の業務は最小限にとどめておきたいという方向になっても不思議ではないからです。

ひとこと

中古住宅を購入しようとしたとき、たとえば、仲介業者が「この物件はインスペクション済みなので安心な物件」だと言ったとしても、けっして安心できないということになります。

それだけでは、どのようなインスペクションがなされたのか、不明だからです。

そのインスペクションが仮に建物状況調査(既存住宅状況調査)だとしたら、報告書には「調査できなかった」という項目がいくつもあるかもしれません。仮に床下の調査ができていない場合、床下の給水管の継ぎ目から水が漏れていてもそのままです。

また、検査の対象が「構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分のみ」なので、それ以外はどうなっているか不明のままです。

さらに、基本、目視によって確認可能な箇所の、顕在化した劣化状況の報告なので、顕在化していない場合、あるいは目視できない箇所の劣化や不具合は、仮に不具合が起きていても報告されません。

このような理由から、たとえ売主側で建物状況調査(既存住宅状況調査)済みだとしても、セカンドオピニオン、ピアチェック【※1】として、買主側であらためてインスペクションを実施する意味があるのです。


また、そもそも住宅のインスペクションは、買主側の意向で、第三者的立場のインスペクターが実施すべきものなので、売主・業者側主導の「建物状況調査(既存住宅状況調査)自体が、買主にとってどこまで有効かという部分も少し疑問が残ります。

住宅のイメージ

改正宅地建物取引業法施行後のインスペクション概要一覧まとめ

このように、2018年4月1日の改正宅地建物取引業法施行後から話題になっているインスペクションは、国の政策としての建物状況調査(既存住宅状況調査)のことです。

一方、改正宅地建物取引業法施行以前から、民間資格者などによるインスペクションや、他の公的資格者によるインスペクション、既存住宅瑕疵保険の建物検査としてのインスペクションは、行われてきています。【※1】


現在の民間資格者によるインスペクションは、国土交通省が2013年6月に策定した「既存住宅インスペクション・ガイドライン」【※2】に準拠しています。

「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が提示される以前には、すでにいくつかの民間事業者が独自の住宅診断基準にもとづき、中古住宅だけでなくリフォームするためなどのインスペクションを実施していました。

ただ各事業者ごとの検査基準や技術力にバラツキがあったので、国土交通省が、中古住宅の住宅診断における一定の基準を示したのが「既存住宅インスペクション・ガイドライン」です。

現在の民間資格者によるインスペクションは、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」の一次診断がメインです。目視中心で非破壊検査による建物の診断です。

中には、専門の診断機材を使用する二次的診断や耐震診断など、他のサービスを提供しているインスペクション業者さんもあります。

また、中古住宅(既存住宅)の診断だけではなく、新築住宅の診断、マンションのチェックなども提供しているインスペクション業者さんもあります。

また、リフォーム関連などの他の公的な資格者によるインスペクションいろいろもあります。


結局、住宅の「インスペクション」といっても、様々なインスペクションがあるので、そこで話されているインスペクションが具体的にどういうインスペクションのことを言っているのかをまず、確認することが重要です。

以下では、改正宅地建物取引業法施行(2018年4月1日)後のインスペクションをおおきく3つに分けまとめてみました。

改正宅地建物取引業法施行(2018年4月1日)後のインスペクション概要一覧まとめ
種類 民間資格者などによる
インスペクション
建物状況調査(既存住宅状況調査) 既存住宅瑕疵保険の建物検査
対象物件 中古住宅(既存住宅)
※実施者によっては新築住宅も対象
中古住宅(既存住宅) 中古住宅(既存住宅)
※基本「新耐震基準以降の住宅」が対象
目的 可能な範囲で既存住宅(新築住宅)の状況や不具合を把握すること。 可能な範囲で既存住宅の劣化状況を把握することが目的で、瑕疵の有無や法令の適合性を判定するものではない。 対象住宅の保険加入の可否を判断すること。
手段 目視・専門機材を使用 目視中心
(一部専門機材を使用)
目視中心
(一部専門機材を使用)
実施者
  • 民間のインスペクション資格者
  • 建築士
  • 建築施工管理技士
など
既存住宅状況調査技術者(建築士事務所に所属する一定の講習を修了した建築士) 保険法人・保険法人に事業者登録した登録住宅評価機関や建築士事務所など
検査範囲   
      
  • 2013年6月に策定された「既存住宅インスペクション・ガイドライン」準拠
  •   
  • 構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分
  •   
  • 一部設備(給排水関連など)
  •   
  • オプション調査(屋根裏・床下などを目視だけでなく、実際に潜って調査。)
  
      
  • 2017年2月に告示された「既存住宅状況調査方法基準」準拠
  •   
  • 構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分
  •   
  • 一部設備(給排水関連など)
  
      
  • 2017年2月に告示された「既存住宅状況調査方法基準」準拠
  •   
  • 構造耐力上主要な部分と雨水の侵入を防止する部分
  •   
  • 保険の補償範囲に応じ給排水・電気関連設備など
検査結果 実施者によって異なる。 所定のフォーマットによる報告。
部分的に「調査できなかった」という報告も可。
所定のフォーマットによる報告。
基本、部分的に「調査できなかった」という報告は不可。
その他    
      
  • 保険の申し込みは検査事業者(個人間売買タイプ)
  •   
  • 検査は引渡し前に受ける
住宅のイメージ

今回は、2018年4月1日施行の改正宅地建物取引業法における建物状況調査(既存住宅状況調査)の説明を中心に、2019年現在の住宅のインスペクションについてまとめてみました。

わかりやすくするため、「民間資格者などによるインスペクション」「建物状況調査(既存住宅状況調査)」「既存住宅瑕疵保険の建物検査」と大きく3つに分け一覧にしてみました。

今後、中古住宅の購入を検討している方などに、少しでも参考にしていただければと思います。


ところで、「既存住宅状況調査」は宅地建物取引業法上は「建物状況調査」と呼ばれますが、内容的には全く同じです。では、なぜ違う呼称で呼ぶのか。

理由ははっきりわかりません。だれがそうしたいのか。なぜそうしたいのか。

既存住宅(中古住宅)の売買を前提とする際の「既存住宅状況調査」を「建物状況調査」と言うことになります。

逆に言うと、既存住宅(中古住宅)の売買を伴わない「既存住宅状況調査」は「建物状況調査」とは言わないことになります。

「ん~、なるほど!」なのか「ん~、わかりにく」なのか。。

こういう名称の言い換えも、特に一般の方の理解を妨げる一つの要因のようにも思います。(^^;

さらに、住宅のインスペクションがまだまだ当たり前ではない現段階の日本の環境で、「既存住宅状況調査」をあまり配慮無く単に「インスペクション」と表現してしまうのは、さらにいろいろミスリードしてしまうのではないかと個人的には思います。

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