住宅購入の目的はいろいろあります。
大きくは「使用価値」と「資産価値」の2つの価値を手に入れることです。
使用価値としては、おもに生活の基盤としてより良い住環境を確保すること。
資産価値としては、ひとつの不動産投資として資産形成をするためでしょう。
しかし、少子高齢化・人口減少時代の今日、住宅(建物+土地)の資産価値を維持できる立地は、ほんの限られた場所のみになっています。
たとえば一戸建ての既存住宅(中古住宅)では、建物の価値は、一律に築後20~25年程度でゼロと評価されているのが現状です。
住宅の評価 = 土地の評価(価格)+建物の評価(価格)です。
一般的に、築後20~25年程度で、住宅の評価 ≒ 土地の評価(価格)+建物の評価(ゼロ)と一律に評価されてしまうので、特に一戸建て住宅の購入を資産形成の手段とするのは、なかなか難しいのが現実です。
一方「資産価値」よりも「使用価値」重視で住宅購入するという場合でも、多額の住宅ローン前提の購入は経済的リスクが高くなってきています。
現在の経済環境・雇用環境では、長期的に安定収入を得られる保証がなくなってきているからです。
家賃にせよ住宅ローンの返済にせよ、住居費は、金額を下げるといった調整が難しい費用なので、固定費的な性格の支出です。
よって、住宅購入者としては、年収に占める年間合計返済額の割合(=総返済負担率)が融資基準内だとしても、従来と同様の発想で「家計のポートフォリオ」を考えるわけにはいきません。
「家計のポートフォリオ」における住居費(住宅ローンを含む)の配分は、安全マージンを考慮せざるを得ない時代だと思います。
しかも、従来、国や自治体や企業などが負担していた、定年後や退職後のコストやリスクは、生活者が自身で負担する方向になってきています。
つまり、老後のセーフティーネットの一部は、自身で用意しなければならない時代になっているとも言えます。
その老後のセーフティーネットのなかでも、特に懸念される一つとして「老後の住まい」が最近よく話題になっています。
こうした現在の社会状況における住宅購入では、以前にも増して「出口戦略」を慎重にシビアに検討した上で、住宅購入に臨まなければならなくなってきていると思います。
住宅購入の「出口戦略」とは
「出口戦略(※)」とは、もともと軍事用語で、損失を最小限にとどめるための撤退計画のことです。
企業経営における「出口戦略」も同様の意味で使われることが多いようです。
投資における「出口戦略」は、投資資金をできるだけ多く回収するための戦略になります。時には損切する計画も「出口戦略」です。
不動産投資なら、投資物件をどういう条件やタイミングになったら売却するかという計画になります。
この「出口戦略」のポイントは、プランを実行する条件やタイミングを、あらかじめ検討し計画しておくことです。
住宅購入における「出口戦略」とは、「売却する」「貸す」「相続する」などの将来計画を、購入時にあらかじめ検討しておくことと定義しておきます。
- 住宅購入における「出口戦略」とは
- 【1】売却する
- 【2】貸す
- 【3】相続する
今後の住宅購入では、そういった「出口戦略」に沿う物件を選択することが、より重要と言えます。
たとえば「結婚と同時に住宅を購入し、子育て期が終わる20年後には売却する」という出口戦略なら、20年後に売りやすい家とはどんな家なのかという逆算の発想から、物件を選ぶという考え方です。
簡単に言うと「将来、売りやすい家とはどんな家か」「将来、貸しやすい家とはどんな家か」という第三者の視点も考慮し、住宅を購入するということです。
つまり、将来、売却や賃貸するときに、需要が多い住宅、より万人受けする住宅を考慮することになります。
そのような観点から逆算し、物件の立地や建物の間取りを決めるケースもあり得ます。
このような需要が多い住宅とは、イコール資産価値を維持しやすい物件ということにもなると思います。
いま住宅を持つ時に必要な考え方
住宅の購入は、自身のおかれた状況や価値観をもとに、将来の使用価値と資産価値を考慮し、対象物件を選択します。
これは、だれにとっても容易ではありません。それでも「住宅を持つ」という選択はあります。
たとえば、老後生活のリスクヘッジの一つとして「『終の棲家』としての持ち家を確保しておく」という考え方があります。
現在、公的年金の支給開始年齢は後ろ倒しの傾向ですし、支給額も減る可能性があります。
人生100年時代には、老後に働きたくても働けない可能性もあります。働き口が見つからないかもしれません。そもそも、働く意思はあっても身体的に動けなくなってしまうかもしれません。
つまり老後の収入が公的年金のみになり、しかも、その期間が相当長くなるというケースも想定しなければなりません。
そんな老後の居住環境が「賃貸住宅」なのか「持ち家(ローン完済)」なのかによって、老後の生活リスクが大きく変わる可能性があります。
高齢者の場合、たとえ経済的には問題がなくても、高齢者というだけで賃貸物件を貸してもらいにくいケースなどもあるからです。
さらに賃貸の場合、老後の期間が長くなればなるほど、居住費の総支出額がより掛かることにもなるからです。
このように、将来予測が難しい社会環境においても、様々な生活リスクを回避するための手段として「住宅を持つ」という選択肢はあります。
一般に、住宅購入を検討する際、事前に検討するポイントは、大きく下記の3つくらいだと思います。
- 住宅購入時の3つの検討項目
- [1] 物件の資産価値・使用価値(住宅の市場価値・建物の性能・使用可能年数・地盤の状況 など)
- [2] 家計の予算配分(ライフスタイル・価値観・就業状況・家族構成・購入年齢 など)
- [3] 出口戦略(売却する・貸す・相続する など)
それぞれの検討項目は、互いに関連しています。
どのような物件を購入するか([1] 物件の資産価値・使用価値)は、 [2] 家計の予算配分 や [3] 出口戦略 によって選択が変わります。
たとえば、上記の高齢者の「終の棲家」としての持ち家を検討する際は、「車を必要としない都市部のコンパクトな平屋の住宅」で十分かもしれません。
家族も夫婦2人なので、部屋数は必要最小限で階段は不要です。
でも、最終的に相続するなら、必要最小限で4人家族が住めるような間取りが良いかもしれません。
相続後、子ども家族がそのまま住める可能性もありますし、第三者に貸したり売却するケースでも、より多くの需要が見込めるからです。
このように、住宅購入時の3つの検討項目は、互いに関連・連動しますが、今後の住宅購入では「出口戦略」こそが、物件選択においてより重要なポイントになると思います。
逆に、今の「空き家問題」が顕在化しているのは、日本の住宅においては「出口戦略」がなおざりにされてきたことも、原因の一つと言えるかもしれません。
現在の日本で「家を持つ」ことは、本当に難しい時代になってしまった感があります。
グローバル経済の現代では、雇用が不安定化しているのは、日本だけではありません。
しかし、日本の住宅市場の様々なミスマッチは、これまでの日本独自の住宅政策や都市政策がもたらしている部分も多々あります。
無計画な都市開発が広がり過ぎたこともその一因です。
一部にあまり質のよくない住宅が普及したこともその一因です。
その結果、住宅の所有が資産形成になるケースは、ごく限られた条件の場合のみになってしまいました。
よって、特に若い世代なら、資産形成という観点からは、住宅より株式などの金融資産に予算を配分したほうが良いという方針で、家計のポートフォリオが従来とは変わってきているかもしれません。
一方で「家を持つ」ことをやめるという選択肢もあります。
その場合、当面の家計の経済的なリスクを小さくすることはできるかもしれません。
ただ、生活の基盤である「より良い住環境の確保」や「老後の住まいの確保」などの点では、依然、課題やリスクは残されたままです。
「より良い住環境」は、日々の生活の満足度はもちろん、自身や家族の健康にも大きく影響する可能性もあります。
結局「住まいをどうするか」は、当人がどういう生き方をしたいかという価値観に関連してきます。
そういう意味で、住まいを考える際には、当人の仕事観や家族観、人生観などの自己認識を、あらためて明確にすることが必要なのかもしれません。(^^)