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「住宅デューデリジェンス」のすすめ
従来、個人が住宅購入や不動産投資をする場合、企業ほど慎重に物件調査が実施されてこなかったのが大半です。
しかし、これからの住宅購入の際には、いわば“住宅デューデリジェンス”として、第三者による物件調査を実施し、その結果を確認した上で、住宅(不動産)の購入を検討するという流れが常識になってくるでしょう。
本来「住宅(不動産)の購入」は、家計においては最大の投資なので、念には念を入れ、「現在の市場価値」はもちろん、特に「将来の資産価値や市場性」も考慮に入れ、決断をすべきテーマです。
ところが、これまでの日本における個人の住宅購入では、「現在の市場価値」「将来の資産価値や市場性」について、客観的な検討材料もないままに購入者の主観優先で、購入の判断がなされてきたケースが多いように思われます。
それは、戦後の日本の不動産市場が、さまざまな点において日本独自の状況にあったことが一因かもしれません。
例えば、行政が、住宅の量を確保するために新築に有利な政策を推進したために、住宅(建物)はスクラップ&ビルドが前提になり、住宅(建物)の資産価値があまり重視されてきませんでした。
一方、消費者は、右肩上がりの土地相場を前提に、不動産取得後には土地のキャピタルゲインが得られる時代が続き、こちらも住宅(建物)の資産価値を軽視してきたことなどが挙げられます。
しかし今後は、「人口減少」や「土地神話が崩壊した」時代背景の中、 高額な資産である住宅(不動産)を購入する際には、本来常識と言える考え方にもとづいて、不動産の購入を検討をする時代になってきていると思います。
そこで参考にしたいのは「不動産デューデリジェンス」の考え方です。
不動産
デューデリジェンスとは
不動産デューデリジェンスとは、企業が不動産の売買や証券化等を検討する際、事前に対象となる不動産(施設)を専門家が多角的に調査・診断し、投資対象としての価値を適切に評価することです。
不動産デューデリジェンスの目的は、外観からは見えない不動産(施設)に潜むリスクを見抜き、購入時・保有時はもちろん将来(売却時)のリスクを把握し、もって投資の意思決定に反映させることです。
一級建築士・技術士・弁護士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士などの各分野の専門家が、物件購入のリスクの洗い出しや査定をします。
不動産デューデリジェンスでは、「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から調査し、買収や売買契約の交渉材料にします。

そもそも不動産売買では、対象物件についての情報は、売り手は熟知していても、買い手には不明な点が多い状態です。
買い手と売り手の情報格差(情報の非対称性)が前提になるので、その情報格差を埋めるために、買い手側がリスクヘッジとして「不動産デューデリジェンス」を実施します。
不動産デューデリジェンスにおける物件調査の3つの観点
不動産デューデリジェンスでは「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から物件調査を実施します。
物的調査
土地の状況調査
土地の形状、境界、接道状況、電気・ガス・水道の引き込み状況、土壌汚染、地盤状況などを調査します。
建物の状況調査
建物は、面積、構造、築年数、内装・外装・躯体・設備の劣化状況、メンテナンス状況、耐震性などを調査します。
法的調査
都市計画法、遵法性(建築基準法・消防法など)、許認可関連書類の有無などを調査します。
経済的調査
地域経済の動向、人口動態などの地域の動向や、地価、賃料、需給バランスなどの不動産市場性について調査します。
不動産デューデリジェンスは
第三者の専門家チームが実施
不動産デューデリジェンスの調査には、一級建築士・技術士・弁護士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士など複数の専門家がチームを組み連携し実施されます。
それだけ調査項目が多岐に渡り、また、専門性が求められるからです。
不動産の特性として「個別性」が強いので、リスクも同様に「個別性」が強く、各々の物件を個別に調査をしないと、隠れた瑕疵などを把握できないからです。
このように、企業において経営を左右するような不動産の取得をする場合、第三者の専門家に物件調査を依頼し、その結果を見てから、購入の決断をするという不動産デューデリジェンスが実施されるのです。
企業の場合は、購入に至った理由やプロセスを、株主など第三者に客観的に説明する必要もあるので、当然と言えます。
ホームインスペクションは
住宅デューデリジェンス
の一部
日本の既存住宅(中古住宅)市場では、宅建業法の改正によって、いよいよ来年(2018年)から専門家によるインスペクションの活用が本格的に普及していく段階ですが、上記のとおり、すでに 企業の不動産投資ビジネスにおいては、不動産デューデリジェンスとしてインスペクション(建物検査)は実施されています。
不動産投資において、投資を成功させる最も重要な事項がデューデリジェンスで、その調査結果により、投資価格の引き下げ交渉や場合によっては投資の見送りという重大な投資判断を下します。
一方、一般家庭の家計における資産の5割は自宅(不動産)という試算があります。
一般家庭において、住宅の購入は家計における最大の投資だと言えます。
であれば、企業の不動産デューデリジェンスにならい、個人(一般家庭)においても、住宅購入時には、いわば住宅デューデリジェンスを実施しておくべきという結論になります。
住宅デューデリジェンスの物的調査のうちの「建物の状況調査」にあたる「ホームインスペクション(住宅診断)」は、今後、個人(一般家庭)が住宅購入する際のリスクヘッジとして、最低限、実施されると良いと思います。
さらに、企業の不動産デューデリジェンスにならえば、物的調査のうちの「建物の状況調査」である「ホームインスペクション(住宅診断)」以外に、物的調査のうちの「土地の状況調査」、法的調査、経済的調査についても、本来、重要かつ必要な調査であるはずです。
- 物的調査(建物の状況調査・土地の状況調査)
- 法的調査
- 経済的調査
しかし、現状では、個人の住宅デューデリジェンスは、まだまだ自身で実施するしかありません。
なぜなら、業として住宅デューデリジェンス調査をしてくれる業者が日本ではほとんど存在しないからです。
せめて不動産デューデリジェンスの発想で、「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から購入予定の物件を事前に精査し、独自に調査されることをおすすめします。
- 役所での建築指導課・都市計画課などでのヒアリング
- 法務局での謄本・測量図などの確認
- ゆれやすさマップ・ハザードマップなどの確認
- 建物や擁壁の検査済み証の確認
など、確認事項は多岐にわたり大変なのですが、不動産物件調査関連の書籍を参考にしながら、調査されることをおすすめします。
下記が住宅デューデリジェンスの調査項目の概要です。
住宅デューデリジェンス
の主な調査項目
中古住宅・中古マンション購入時を想定した調査項目概要です。
調査 項目 |
対象 | チェック事項 | 調査先 | わかること | |
---|---|---|---|---|---|
物的 調査 |
土地 | 周辺 | 都市計画・用途地域 | 役所・現地 | 都市計画・用途制限・エリアの特性 |
ゆれやすさマップ・ハザードマップ | 役所・ネット・現地 | 地震・自然災害への安全度 | |||
交通の利便性・生活施設・学校・病院へのアクセス | ネット・現地 | 生活利便性 | |||
物件 | 前面道路への接道状況 | 法務局・現地 | 利便性・遵法性 | ||
地盤調査報告書・地盤状況・擁壁 | 売主・現地 | 地盤の強さ | |||
電気、ガス、上下水道の状況 | 各事業者・現地 | 将来の付帯工事 | |||
建物 | 建物の経年劣化状況 〔マンション〕 駐車場・駐輪場・防犯/防災設備・その他共用設備など |
インスペクション業者・現地 | 建物の劣化状況 | ||
設計図面(※1) | 売主 | 建物の構造 | |||
建築確認証明書・検査済み証・建築確認台帳記載事項証明書・建築計画概要書の写し | 売主・役所・指定確認検査機関 | 築年数・耐震性能・既存不適格建築物 | |||
住宅性能評価書 | 売主 | 耐震性能、省エネ性能など | |||
法的 調査 |
土地 | 都市計画、用途地域、登記簿謄本(登記事項証明書)・公図・地積測量図 | 役所・法務局・現地 | 遵法性・所有権・抵当権・面積など | |
建物 | 登記簿謄本(登記事項証明書)・建物図面 | 法務局 | 所有権・抵当権・構造・規模・面積など | ||
建築確認証明書・検査済み証・建築確認台帳記載事項証明書・建築計画概要書の写し | 売主・役所・指定確認検査機関 | 遵法性・既存不適格建築物 | |||
経済的 調査 |
土地 | 都市計画・用途地域・人口動態 | ネット・役所 | 今後の都市計画、居住誘導エリアなど | |
交通の利便性・生活施設・学校・病院へのアクセス | ネット・現地 | 市場性 | |||
建物 | 〔一戸建て〕 建物の定期チェックの状況 〔マンション〕 修繕積立金・管理費の状況 修繕計画と実施内容 |
売主 | メンテナンス状況・物件の管理状況(マンション) |
※1:配置図・平面図・立面図・断面図・矩計図・基礎伏図・給排水図・電気設備図など
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