中古住宅購入時にインスペクション(既存住宅状況調査)する段階は、インスペクションの結果に問題がなければ契約するという、購入直前の段階です。
中古住宅の購入プロセスにおいては、最終段階だと思います。
そこに至るまでには、不動産デューデリジェンスの「経済的調査」「法的調査」「土地の状況調査」はすでに終わっている(?)はずです。(^^)
今回は、購入前のインスペクション(既存住宅状況調査)を依頼する以前の、物件選びの段階で、建物について知っておくべき3つのポイントについてのお話しです。
主として「耐震性」に関係するポイントですが、物件の選択や購入後のリフォームの内容、購入予算にも影響する可能性があるポイントです。
- インスペクションの前に建物について知っておくべき3つのポイント
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- 建物の「建築年月」からわかること
- 建物の「外観の形状」からわかること
- 建物の「間取り」からわかること
建物の「建築年月」からわかること
建物が「いつ建てられた」かは、耐震性に関連するひとつの重要な指標です。
なぜなら、建物が建てられた時期(年代)によって建築基準法の耐震性の基準が異なるからです。
建築基準法の耐震基準は、大きな地震が起きるたびに新たな知見が盛り込まれ、逐次強化されています。
特に耐震基準が大きく切り替わった下記のタイミングは、基本知識として押さえておきましょう。
- 【旧耐震基準】~1981.05
- 【新耐震基準】1981.06(昭和56年6月1日)~
- 【2000年基準】2000.06(平成12年6月1日)~
チラシなどにある、建物の「築年月」「建築年月」と記載されている箇所が目安になります。
※耐震基準の時期は、建物の完成日ではなく「建築確認証明書(建築確認の台帳写し証明)」および「検査済み証」の日付で確認するのがポイント。
↓下記の関連ページもご覧ください。
1978年(昭和53年)6月12日に発生した宮城県沖地震の教訓は、約3年後の1981年(昭和56年)6月1日から施行された【新耐震基準】に反映されています。
1995年(平成7年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災の教訓は、約5年後の2000年(平成12年)6月1日から施行された【2000年基準】に反映されています。
2016年(平成28年)4月14日に発生した熊本地震は、震度7の地震が相次いで2度発生するという過去に例のない地震でした。
熊本地震の教訓は、まだ建築基準法には反映されていません(※注1)が、新たな知見はいくつか得られています。
それは、震度7が相次いで2度発生した場合の、旧耐震基準、新耐震基準、2000年基準それぞれの耐震性を把握する一つの事例になったことです。
特に、2000年6月以降の【2000年基準】とそれ以前の【新耐震基準】との、耐震性の違いが顕在化したことです。
(※注1)熊本地震の教訓は、まだ建築基準法には反映されていませんが、旧耐震基準はもちろん、新耐震基準の在来軸組構法の木造住宅のうち2000年基準以前に建築されたものについては、耐震性能を確認する必要があるとして、所有者用の耐震性能検証法が公開されました。
つまり1981年(昭和56年)6月~2000年(平成12年)5月の新耐震基準の住宅の耐震性には注意が必要という教訓は得られています。
上記の「報道発表資料:熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書について - 国土交通省」では、熊本地震後の現地調査の結果、2000年6月以降の【2000年基準】とそれ以前の【新耐震基準】との、耐震性の違いが報告されています。
その中で注目したいのは、熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書<概要版>(PDF形式) のP3にある、日本建築学会が実施した熊本地震の調査結果のグラフです。
そもそも建築基準法の耐震基準の目標は「大地震でも建物が倒壊せず人命が救われる」ことであって、建物の損傷や地震後でも住み続けられるかどうかではありません。
しかし、私たち住まい手の一般的な感覚としては「大地震でも建物が倒壊せず人命が救われ、その後もそのまま建物に住み続けられる」ことを期待していると思います。
阪神・淡路大震災から熊本地震に至るまで、大きな地震が起きた際には、建物が倒壊にいたらなくても、地震後住めなくなってしまった事例は、一戸建て住宅でもマンションでもあります。
そのような事実がある以上、私たち住まい手としては、建築基準法が定める現在の耐震基準(2000年基準)でも安心はできません。
大きな地震による建物被害の原因は、個々の住宅の「地盤の強度」や「設計プランの配慮」「施工品質」など様々ありますが、建築時期による耐震基準の違いは、そもそもの住宅の耐震仕様のベースになる大きなポイントです。
よって、建物の「建築年月」は、建物の耐震性を判断する目安として欠かせない要素です。
ちなみに、住宅性能表示制度による耐震等級と2000年基準との関係は下記のとおりです。
- 耐震等級1 = 2000年基準
- 耐震等級2 = 2000年基準×1.25倍
- 耐震等級3 = 2000年基準×1.5倍
- 耐震等級2は、長期優良住宅や【フラット35】S 金利Bプランの認定基準。地震保険の割引率20%。
- 耐震等級3は、【フラット35】S 金利Aプランの認定基準です。地震保険の割引率50%。
個人的には、2000年基準×1.5倍(=耐震等級3)くらいが、私たち住まい手が一般的な感覚として期待する耐震基準のように思います。
- 現行の耐震基準ギリギリでは阪神大震災に耐えられない可能性があることを示した実大実験
- 耐力壁が少ない家の壊れ方|日経アーキテクチュア
- ※実際の建物では、これに石膏ボードやサイディングなどの外壁材が加わるので、この実験より建物の変形量は小さくなるはずです。
建物の「外観の形状」からわかること
建物の「外観の形状」は、耐震性や雨漏りなどの不具合に関連してきます。
「見た目のバランス」と「屋根形状など」が注目ポイントになります。
立面的にも平面的にも凹凸が多い建物では、耐震性や雨漏りなどについて、より慎重に確認しましょう。
立面的にも平面的にも凹凸が多いと建物のバランスにかたより大きくなる(偏心率が大きくなる)場合があり、地震や暴風などの際に、建物にねじれが生じて揺れが大きくなってしまう可能性があります。
柱や壁の位置は立面的にシンプルかどうかにも注目しましょう。
例えば、下記の特徴に注目しましょう。
- 1階と2階の形が異なる家かどうか
- 「複雑な屋根形状」「片流れ屋根」「陸屋根(りくやね)」の家かどうか
- 軒ゼロ住宅かどうか
- 天窓(トップライト)・ドーマー・煙突などがある家かどうか
- バルコニーがある家かどうか
- 増築したことがある家かどうか
※上記の形状だから建物の強度が弱いとか雨漏りしやすいということではなく、より慎重に耐震性能や不具合などを確認したほうがよいという事例です。
※逆に外観の変化が乏しければ、美観的には必ずしもプラスにならないこともあります。あくまでも、耐震性や雨漏りなどの不具合という観点からのテーマです。
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建物の「間取り」からわかること
建物の「間取り」は、耐震性や光熱費などのランニングコスト、住み心地にも関連してきます。
耐震性の観点からは、柱や壁(耐力壁(※注3))が平面的にバランスよく配置されているかにも注目します。
熊本地震後に注目された1階と2階の壁の位置関係の指標である「直下率」は『NHKスペシャル | あなたの家が危ない~熊本地震からの警告~』(※注2)でも取り上げられ話題になりました。
壁の位置が上下階で一致している割合(直下率)にも注目しましょう。
ここでは特に耐震性という観点から、例えば下記の特徴をより慎重に確認しましょう。
- 直下率が低い家(壁の位置が1階と2階で一致している割合が低い家)かどうか
- 耐力壁のバランスが偏っている家かどうか
- 大きな吹き抜けがある家かどうか
- 玄関の吹きに抜けとリビングの吹き抜けの位置が近い家かどうか
※上記の間取りだから建物の強度が弱いということではありませんが、より慎重に耐震性能などを確認したほうがよいという事例です。
※逆に窓(開口部)や居室の空間的な広さが乏しければ、屋内の採光や通風という観点からは、必ずしもプラスにならないこともあります。
(注3)耐力壁(たいりょくへき/たいりょくかべ)とは筋交いや面材(構造用合板等)で補強した壁のことです。耐震性においては、耐力壁の量と耐力壁の配置バランスが重要です。
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中古住宅購入時にインスペクション(既存住宅状況調査)をする以前に知っておきたい予備知識として、主として耐震性に関係する、建物の3つのポイントについて説明しました。
この3つのポイントを知っていれば、中古住宅購入者は、物件選択の段階で、自身で物件の「耐震性」や「雨漏りなどの不具合」などのリスクについてある程度判断できます。
結果的に、物件選びにおいて、購入者自身の価値判断を反映できる1つの要素になると思います。
例えば、購入後すぐに耐震補強、耐震リフォームをしてから住み始める計画も立てられます。
水回りのリフォームなど他のリフォームの予定があれば、同時に耐震補強をする計画を立てられます。
そのための「耐震診断の費用」や「耐震リフォームの費用」を、前もって購入予算の中に確保しておくこともできるでしょう。
よって、購入後に後悔しない納得した中古住宅を購入するために、インスペクション(既存住宅状況調査)を依頼する以前の、物件選びの段階で、建物の3つのポイントを確認しておくことをおすすめします。