前回のブログ記事では、中古住宅の資産価値を考えた時、立地(エリア)が重要ということを強調しました。
これは、中古住宅では特に立地(エリア)が資産価値を左右する最大のキードライバー(key driver)※だからです。
特に日本ではそういえます。
なぜなら、日本では、戸建住宅(持ち家)の7割が木造住宅(在来工法)ですが、その木造住宅(在来工法)は、新築から約20年で一律に資産価値が0と査定される業界の慣習があるからです。
どんなにメンテナンスしていても、状態が良くても、建物は「約20年で資産価値がゼロ」となるのです。
よって築数年たった中古住宅では、中古住宅の資産価値 ≒ 土地部分の資産価値 となってしまいます。中古住宅の資産価値を考えた時、立地(エリア)が重要といえる所以です。
一方で、物件の資産価値を評価する際には、立地(エリア)以外にも重要なポイントがいくつもあります。
本来、物件の資産価値に影響を与えるパラメータ(変数)は立地(エリア)以外にもあります。
「住宅デューデリジェンス」のすすめのページで紹介しています「不動産デューデリジェンスにおける物件調査の3つの観点」、「物的」「法的」「経済的」の3つの観点からの各調査項目が、資産価値を決めるパラメータ(変数)と言えます。
中古住宅は「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から調査すべき
そもそも不動産売買では、対象物件についての情報は、売り手は熟知していても、買い手には不明な点が多い状態です。
買い手と売り手の情報格差(情報の非対称性)が前提になるので、その情報格差を埋めるために、買い手側がリスクヘッジとして「不動産デューデリジェンス」を実施します。
一般の方が中古住宅を購入する際にも、本来、デューデリジェンス実施後に購入の是非を判断したほうが、購入リスクを軽減できます。
その際、「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から物件調査を実施します。
不動産デューデリジェンスにおける物件調査の3つの観点
不動産デューデリジェンスでは「物的」「法的」「経済的」の3つの観点から物件調査を実施します。
物的調査
土地の状況調査
土地の形状、境界、接道状況、電気・ガス・水道の引き込み状況、土壌汚染、地盤状況などを調査します。
建物の状況調査
建物は、面積、構造、築年数、内装・外装・躯体・設備の劣化状況、メンテナンス状況、耐震性などを調査します。
法的調査
都市計画法、遵法性(建築基準法・消防法など)、許認可関連書類の有無などを調査します。
経済的調査
地域経済の動向、人口動態などの地域の動向や、地価、賃料、需給バランスなどの不動産市場性について調査します。
中古住宅購入の際のデューデリジェンスの概要を一覧にすると下記のようになります。
中古住宅購入の際の
デューデリジェンスの概要
調査
項目 |
対象 |
チェック事項 |
調査先 |
わかること |
物的
調査 |
土地 |
周辺 |
都市計画・用途地域 |
役所・現地 |
都市計画・用途制限・エリアの特性 |
ゆれやすさマップ・ハザードマップ |
役所・ネット・現地 |
地震・自然災害への安全度 |
交通の利便性・生活施設・学校・病院へのアクセス |
ネット・現地 |
生活利便性 |
物件 |
前面道路への接道状況 |
法務局・現地 |
利便性・遵法性 |
地盤調査報告書・地盤状況・擁壁 |
売主・現地 |
地盤の強さ |
電気、ガス、上下水道の状況 |
各事業者・現地 |
将来の付帯工事 |
建物 |
建物の経年劣化状況
〔マンション〕
駐車場・駐輪場・防犯/防災設備・その他共用設備など |
インスペクション業者・現地 |
建物の劣化状況(一般的な一次診断では目視でわかる範囲のみ) |
設計図面(※1) |
売主 |
建物の構造 |
建築確認証明書・検査済み証・建築確認台帳記載事項証明書・建築計画概要書の写し |
売主・役所・指定確認検査機関 |
築年数・耐震性能・既存不適格建築物 |
住宅性能評価書 |
売主 |
耐震性能、省エネ性能など |
法的
調査 |
土地 |
都市計画、用途地域、登記簿謄本(登記事項証明書)・公図・地積測量図 |
役所・法務局・現地 |
遵法性・所有権・抵当権・面積など |
建物 |
登記簿謄本(登記事項証明書)・建物図面 |
役所・法務局 |
所有権・抵当権・構造・規模・面積など |
建築確認証明書・検査済み証・建築確認台帳記載事項証明書・建築計画概要書の写し |
売主・役所・指定確認検査機関 |
遵法性・既存不適格建築物 |
経済的
調査 |
土地 |
都市計画・用途地域・人口動態 |
ネット・役所 |
今後の都市計画、居住誘導エリアなど |
交通の利便性・生活施設・学校・病院へのアクセス |
ネット・現地 |
市場性 |
建物 |
〔一戸建て〕
建物の定期チェックの状況
〔マンション〕
修繕積立金・管理費の状況
修繕計画と実施内容 |
売主 |
メンテナンス状況・物件の管理状況(マンション) |
※1:配置図・平面図・立面図・断面図・矩計図・基礎伏図・給排水図・電気設備図など
:インスぺションの対象
:仲介業者の重要事項説明の対象
こうして一覧で見ると、建物のインスペクション(状況調査)は、本来、事前調査でチェックすべき項目のうちのごく一部であることがわかると思います。
また、仲介業者の重要事項説明でもいくつかの項目がありますが、一般的には状況の報告で、その内容についての評価の説明ではありません。
例えば、法的調査での建物のチェックにおいて、既存不適格建築物かどうかは中古住宅購入者によっては重要なポイントになる場合があります。
近い将来にリフォームや増改築をすることを前提に、中古住宅を購入しようと考えている購入者にとっては、建物が既存不適格建築物かどうか、また、既存不適格建築物の場合、具体的に何がその要因なのかは、重要なポイントです。
なぜなら、建物が既存不適格建築物の場合、希望通りのリフォームや増改築ができなかったり、できたとしてもかなり制限された範囲でしかリフォームや増改築が出来ない可能性があるからです。
既存不適格建築物かどうかは、仲介業者も把握していれば、需要事項説明書に記載すべき項目ですが、将来リフォームや増改築をする際に、希望通りのリフォームや増改築ができない可能性もあることまでは、説明がないかもしれません。
でも、当初から中古住宅購入後にリフォームや増改築を考えている購入者にとっては、既存不適格建築物となっている理由は、購入前に詳しく知っておきたい事項です。
中古住宅の購入は、リフォームを前提に購入される場合も多いと思います。
そんな方は、下記のリフォーム支援ネット「リフォネット」を中古住宅の購入前に目を通されることをおすすめします。
リフォーム支援ネット「リフォネット」は、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営しているWEBサイトで、リフォームについての基礎的な情報や注意点などが詳しく記載されています。
また、例えば「地盤の強さ」も重要です。
中古住宅の購入後に既存住宅瑕疵保険を付けられる購入者もいらっしゃると思います。
実は、瑕疵保険を付けていても、下記の事由により生じた損害の場合は保険の対象外です。
- 土地の沈下・隆起・移動・振動・軟弱化・土砂崩れ、土砂の流入または土地造成工事の瑕疵
つまり、土地に起因する建物の不具合については瑕疵保険の対象外という点は事前に知っておきたい事項です。
地盤のしっかりした土地が重要な所以です。
上記の「既存不適格建築物」や「地盤の強さ」などの項目例は、中古住宅を購入される方にとっては重要な項目だと思います。
↓下記の関連ページもご覧ください。
建物のインスぺクションの範囲以外の調査項目(主に土地)について
繰り返しになりますが「住宅デューデリジェンス」の観点からは建物のインスぺクションは物件調査のごく一部です。
では、その他の項目の調査はどうしたらよいか。
その他の調査項目は、現在の日本では、依頼できる業者さんがほとんどいないので、なかなか専門家にお願いするわけにはいきません。
残念ながら、自力で調べ把握しておくしかありません。(^^;
そこで、事前に注意点を知っておこう、さらに自分でも調べてみよう、という一般の方の参考図書として、下記の書籍をご紹介します。
住宅新報社さんが出版されてる図解不動産シリーズの4冊です。
このシリーズは業界関係者を対象としているようですが、図解不動産業シリーズということで、各ページとも見開きの片方のページがマンガで解説されているので、一般の方にも理解しやすいと思います。
出版は株式会社住宅新報社さんで、「住宅新報」という住宅・不動産の専門紙を発行されている老舗の業界専門紙社さんですので、内容は折り紙付きだと思います。
ちなみに、私がハウスメーカーで広報部に在籍していた際には、もちろん、お付き合いさせていただいていました(^^)
まず1冊目は「ホームインスペクション入門」です。諸外国との比較から日本の住宅市場の特長についても解説されています。また、一般的なホームインスぺクション(一次診断)を超えた調査範囲についても解説されていて参考になります。
次に「不動産物件調査入門」です。3部作ありますが、個人的には「取引直前編」がわかりやすいと思います。主に土地についての調査項目について詳しく説明されています。
ホームインスペクション入門
【出版社の説明より】
本書は中古住宅流通にかかわる人々に向けて、建物のチェックポイントや取引に必要な業界の知識についてマンガをまじえてわかりやすく解説しています。
また、巻末資料として、既存住宅インスペクション・ガイドラインの概要を掲載しています。
不動産物件調査入門 取引直前編 改訂版
【出版社の説明より】
「売買契約の直前にする現地調査のしかた」をテーマにした『不動産物件調査入門シリーズ』の実践編。
不動産の欠陥は、何らかの形で現地にその事象となって現われているといわれ、その現象の捉え方や見逃さないためのテクニックを身につけることで、安全な不動産取引を実現できる。
不動産物件調査入門 実務編 3訂版
【出版社の説明より】
民法には、瑕疵の具体的な内容に関する規定は存在せず、宅建業法においても「不動産の調査方法基準」等は定められていない。
そのため、宅建業者が「調査、説明すべき範囲」が明らかでなく、不動産トラブルの多くは、このグレーゾーンに起因する。
本書では、不動産調査の範囲・目的・手法という、「基本の調査ノウハウ」をマンガをまじえてわかりやすく解説している。
不動産物件調査入門 基礎編 改訂版
【出版社の説明より】
売却物件の商品化の基礎となる調査や重説のための調査まで、不動産流通の現場で必要となる基礎知識をマンガで楽しく解説。
トラブルを未然に防ぐための現地調査のポイントが理解でき、取引関係者の信頼を得られる物件調査能力が身に付く。
「どこで何を調べるの?」といった初任従事者が戸惑いがちな調査の流れもまるわかり!
前回のブログ記事に続き、中古住宅を購入する際に、物件を選ぶ際の大切なポイントについて説明しました。
現在および将来において、中古住宅の資産価値を最も左右するのは立地(エリア)なのですが、それ以外にも注目すべきポイントを、不動産デューデリジェンスにおける物件調査の3つの観点から、解説しました。
中古住宅の取引は、最も高価な「個人間取引」なので、やはり、買手の自己責任の覚悟は必要だと思います。
可能であれば、諸外国のように、購入前に専門家に物件チェックをお願いしたい分野ですが、現在の日本には、そのような専門サービスがほんとんどありません。
よって、日本では、購入者個人がより購入リスクを負わざるを得ない状況に置かれていると言えます。
より良い住宅を手に入れるためには、そういった日本の住宅市場の特徴も理解した上で、慎重に購入物件を選ばれることをおすすめします。
↓下記の関連ページもご覧ください。