昨今、一般家庭において「住宅を所有するリスクは年々高まっている。」と個人的には感じています。
大きくは2つのリスクが挙げられます。
『【1】自然災害リスク』については、豪雨による河川の決壊、土砂災害があります。住宅の立地が問題となります。
また地震による住宅の倒壊があります。住宅の立地とともに、建物の耐震性が問題となります。
いずれも、被害を受けた地域では、住民は住宅を失い生活がなりたたなくなってしまったり、最悪、生命の危機にまで影響が及んでいます。
『【2】家計のリスク』では、家計の収入と支出、つまり家計のキャッシュフローの予測(シミュレーション)が難しい時代になってきいることが問題となります。
グローバル化、情報化など、変化の早い社会環境において、雇用が流動化していることも要因の一つです。また、医療制度の充実や医療技術の進歩等によって、個人が長寿・高齢化し、人々の平均寿命が伸びていることも大きな要因です。
一生にわたる人々の生活全般において、ますます「リスクが顕在化する時代」になっていると思います。
そこで必要なのは、リスクをいかにマネジメントするか。生活設計において「リスクマネジメント」という観点からさまざまなリスクに備えておくことが重要です。
日本では一般の家計における債務のほとんどは住宅ローンです。つまり家計におけるリスクを最も大きく左右する項目の一つが「住宅購入」です。
そこで今回は「リスクマネジメント」という観点から、「住宅購入」におけるリスクには何があるのか、どう対応するのかを簡単に整理し概観してみます。
「リスクマネジメント」実施のプロセス
一般的に、多種多様なリスクに備え対応することを「リスクマネジメント」といいます。
「リスクマネジメント」は、企業はもちろん地域社会や地方自治体、政府や国でも検討される重要なテーマです。
組織を健全に運営するための『経営リスク』、あるいは自然の脅威に備える『自然災害リスク』への対応は、リスクマネジメントの重要なテーマです。
一方、現代の社会環境・経済環境においては、個人や家庭でも生活設計の「リスクマネジメント」が必要な時代になってきていると、個人的には感じています。
「リスクマネジメント」実施のプロセスには、おもに3つのステップがあります。
- STEP1【リスク情報の収集】調査・確認
- STEP2【リスク予測】分析・評価
- STEP3【リスク対応】処理手段の選択・実施
以前から言及している「不動産デューデリジェンス」は、対象物件の市場性リスクや物理的なリスクの洗い出しなど、リスクの特定がおもな目的です。
もちろん「不動産デューデリジェンス」の一部である住宅診断(インスペクション)も同様です。
つまり、住宅購入における「不動産デューデリジェンス」や「住宅診断(インスペクション)」は、『 STEP1【リスク情報の収集】調査・確認 』に該当します。
STEP1で把握できたリスク内容に基づいて、『 STEP2【リスク予測】分析・評価』を実施します。
STEP2では、リスク対応の優先順位などを決めます。
リスク対応の優先順位が決まったら、STEP3【リスク対応】処理手段の選択と実施です。
STEP3では、「リスクコントロール」と「リスクファイナンス」という2つの手法で、リスクに対処します。
「リスクコントロール」と「リスクファイナンス」について
リスクへ対処の方法には、大きく「リスクの回避」「リスクの低減」「リスクの移転」「リスクの保有」の4つがあります。
「リスクの回避」「リスクの低減」は「リスクコントロール」に分類されます。
「リスクの移転」「リスクの保有」は「リスクファイナンス」に分類されます。
住宅購入においては、「リスクの回避」は、住宅を購入しないことなので除きます
また「リスクの保有」は、リスクを認識していても特に対策を講じないことなのでこれも除きます。
よって、住宅購入におけるリスク対応は、下記の2つに絞られます。
- リスクコントロール …「リスクの低減」= 事前の物理的な予防や軽減策。
- リスクファイナンス …「リスクの移転」= 事後の資金的な手当て。
となります。
住宅購入のリスクマネジメント概観
住宅購入におけるリスクは、より詳細に言うと取得時と保有時のリスクに分けられますが、今回は、おもに取得時を想定しています。
ここでは、「リスクコントロール」「リスクファイナンス」という項目と、不動産デューデリジェンスの「物理的調査」「法律的調査」「経済的調査」という項目で一覧にしてみました。
住宅購入のリスクマネジメント概観
調査区分 |
調査内容 |
リスクコントロール例 |
リスクファイナンス例 |
物理的 |
建物 |
- 耐震性のチェック
- 住宅性能評価書のチェック
- インスペクション実施
など
|
- 長期優良住宅仕様
- 耐震等級3仕様
- 耐火等級4仕様
- 劣化対策等級3仕様
- 断熱等性能等級4仕様
- 省エネルギー性に優れた仕様
- バリアフリー性に優れた仕様
- 定期的なメンテナンス
など
|
- 地震保険に加入
- 火災保険に加入
- 住宅瑕疵担保責任保険に加入
|
土地 |
- 所在・地番、地目、地積などの調査
- ハザードマップ調査
- 地質・地盤調査
- 隣地境界調査
- 地下埋設物調査
- 土壌汚染物調査
など
|
- 地震に強い立地の選定
- 自然災害リスクが小さい立地の選定
- 地盤補強
など
|
|
法律的 |
建物 |
- 建築基準法の遵法性チェック
- 権利関係チェック
- 契約書類チェック
- 重要事項説明チェック
- 謄本・公図・地積測量図チェック
- 登記内容チェック
|
- 事前に建築士に相談
- 事前に司法書士に相談
- 事前に弁護士に相談
など専門家に相談する
|
- 建設住宅性能評価書の交付
(指定紛争処理機関を利用)
|
土地 |
経済的 |
建物 |
- ライフプランシミュレーション
- ローン返済計画チェック
- 金銭消費貸借契約証書チェック
- 抵当権設定契約証書チェック
など
|
- 事前にファイナンシャル・プランナーに相談
- 事前に住宅ローンアドバイザーに相談
など専門家に相談する
|
|
土地 |
従来「住宅取得」は多くの一般家庭において、人生最大の買い物であり資産形成の中心的な役割をになってきました。
すでに“土地神話”が崩壊して久しい今、住宅(土地)が資産価値を維持できるかどうかは、需給バランスに基づいて決まるという、本来の姿になったとも言えるでしょう。
一方で、地球温暖化が原因なのか、日本が地震の活動期を迎えているからなのか、近年、自然災害のリスクが増大しているように思います。
その結果、住宅の立地に関係する水害リスクや土砂災害リスク、地盤強度、建物の耐震強度・施工精度に関係する地震リスクなど、これまで見過ごされてきたり、あまり関心が注がれてこなかった住宅の物理的なリスクが顕在化してきています。
また一方で、家計の将来予測が難しい時代になり、また長寿高齢化の流れの中で、長期返済を前提とした住宅ローンという家計債務のリスクも、ますます顕在化してきています。
それほど住宅所有のリスクが増大しているのなら住宅を所有しないという選択肢ももちろんあるでしょう。
ただ日本では、良質な公共住宅の確保より、新築の持ち家を推進する政策を、戦後から長年すすめてきた経緯があり、持ち家を取得することが、より良質な居住環境の確保につながっているのが現実です。
さらに、世界トップクラスの長寿国である日本では、「老後の住まい」を考えた際、経済的には持ち家が有利という考え方もあります。
住宅所有のリスクが増大していてもなお「住宅取得」へのニーズが高い所以だと思います。
そもそもリスクは、地域や社会環境、時代によっても変わりますが、現在の「住宅取得」では、従来以上にさまざまなリスクを考慮する必要があると思います。